VRヘッドフォンのOSSIC XというプロジェクトがKickstaterありました。この開発元OSSICが資金不足で会社を閉鎖することとなりました。プロジェクト支援者のほとんどは、製品を受けとれずに終わることとなりました。
OSSIC Xととは
2016年2月、OSSIC XというプロジェクトがKicksraterに登場しました。
OSSIC Xは、いわばバーチャルリアリティヘッドフォンです。
例えばOSSIC Xをかけて左を向くと・・
音が右の耳から聞こえるようになります。
普通のヘッドフォンだと、自分がどちらを向いているかは関係ありません。右を見ようが、左を見ようが同じです。
このように自分の向いている方向で反応が変かわることは、ヘッドトラッキングと呼ばれます。例えばOculus Riftもヘッドトラッキングをしています。
そこでヘッドフォンでヘッドトラッキングをしよう、というのがOSSIC Xの一番重要なコンセプトです。しかしこれが最終的にプロジェクトの失敗につながることとなりました。開発元は「アキレス腱になった」と言っています。
会社閉鎖に至る経緯
OSSIC XはKickstarter上で約2億9600万円(270万ドル)集めました。クラウドファンディングのプロジェクトとしては、かなり大きな金額を集めた部類になります。ユーザーの興味を強く引いた、と言っていいでしょう。
2016年2月にKickstarterへプロジェクト掲載、そこから2年の試行錯誤と製品開発をへて、2018年1月少数の初期生産分を出荷しました。
そして2018年5月、開発元が会社を閉鎖することを発表しました。
https://www.ossic.com/
閉鎖することになった理由は、資金不足です。Kickstarterで約束した数の製品を出荷するためには、さらに追加で200万ドルの資金(2億1000万円)が必要となりました。
開発元OSSICはもちろん資金集めを試みましたが、最終的にどうしてもお金が集められず、会社を閉鎖するという決断に至りました。
返金については現在発表はありませんが、おそらく難しいと思います。
資金不足になった理由
開発元OSSICはKickstarterでお金を集めたにも関わらず、資金不足に陥ってしまいました。理由はなんでしょうか?
OSSICによれば、以下の二つが主な理由です。
・技術的難易度が高すぎた
・VR市場が思ったより広がらなかった
まず技術面ですが、前述の通りOSSIC Xは通常のヘッドフォンとは大きな違いがあります。
・ヘッドトラッキングのためにセンサーを積んでいる
・頭の向きに合わせて音が変わる
・音を出すドライバーを8つ積んでいる
・音を出す
・マイクを6つ積んでいる
・それらを制御するソフト(本体内蔵分、Windows、Mac、iPhone、Android)
これらの要素をすべて作ろうとすると、相当大変です。不可能ではないと思いますが、開発人員、時間、お金がかかります。
例えばドライバー(ヘッドフォンの音を出す部分)は片側4つありますが・・
4つそれぞれの鳴らし方を変えることで、3D再生をヘッドフォンで実現しようというものです。
しかしこのバランス調整だけみてもこれは難易度が高いでしょう。4つをうまく鳴らさないと、3Dの向きによって、音が不自然に途切れてたような感じになってしまいます。
ヘッドトラッキングに関しても、精度よく行うのは大変です。Oculus Riftも製品版が発売されるまでに、半製品プロトタイプ版がいくつか存在しています。
ソフトに関しても、本体内蔵ソフト、Windows、Mac、iPhone、Androidと、多くのプラットフォームを作成していました。これもかなりの負担です。仮に各プラットフォームに一人だけ割り当てるとしても、それだけで5人必要になります。
モバイルプラットフォームは元々は対象ではありませんでしたが、ストレッチゴールによって対応することとなりました。ストレッチゴールとは集まった金額によって、機能などが追加されるいうものです。これも自分の首を絞める一因となりました。
またもう一つの理由として、バーチャルリアリティ市場が思ったよりも広がらなかったこともOSSICは述べています。そのためにヘッドトラッキング用の高速なセンサーが安価で手に入らず、ここでも苦労することとなりました。首の動きと音の反応にタイムラグがあると違和感が生まれます。高速なセンサーが必要なのはそのためです。
資金不足に陥った理由をまとめると、作るべき機能が多すぎた上に、難しすぎた。だから開発費が不足してしまった、ということです。
資金集め
開発が難しかったために資金不足になりましたが、OSSICもただ手をこまねていていたわけではありません。
まず当初の段階からKickstaterとは別に、投資家から立ち上げ資金を出資してもらっていました。条件は公開されていませんが、投資家が株を受け取てその代わりにお金を払う、エクイティ方式であったと思われます。
さらに前記初期投資、Kickstarterでの支援金とは別に、StartEngineというサイトで出資金集めも試みていました。StartEngineはクラウドファンディングサイトで、お金を払って株を受け取るという出資型サイトです。
ここでは13万ドル(約1400万円)に金額が到達しましたが、必要なお金であった200万ドルには到達しませんでした。そのためStartEngineではお金を受け取りませんでした。
最終的に万策尽きて、会社を閉鎖することとなりました。
StartEngineやそのほかの方法で投資を集められなかった理由としては、バーチャルリアリティ市場が思ったよりも広がらなかった、またほかのテクノロジー系スタートアップ企業でも失敗例があったこと、を挙げています。
仮にですが、バーチャルリアリティ市場が世界中で大流行していたら、また状況は違っていたでしょう。VR系の企業にお金を出そうという人も多かったでしょう。しかし現実の市場はそうはなりませんでした。
何がまずかったのか?
過去にもクラウドファンディングでのプロジェクト頓挫例はいくつかありました。Skullyの場合はお金の使い込みでした。
ZANOの場合は、当初の動画が嘘でした。
今回はお金の使い込みではないと思われます。また当初言っていたことが嘘というわけでもないと思います。
では一体何がまずかったでしょうか?
後だしじゃんけんによる批評になりますが、機能を盛り込みすぎたことではないかと思います。開発元が言っている通り、OSSIC Xに搭載されるはずの機能は盛沢山でした。さらにストレッチゴールで機能を追加してしまったことも、今から考えればよくなかったです。
最小限の機能に絞って、完成させて出荷までたどり着くべきだったと思います。
ただしこの論評は、完全な後だしじゃんけんです。ストレッチゴールは確かに自分の首を絞めることとなりましたが、これがなかったら2.9億円もお金が集まったかどうかはわかりません。機能にしても、もし削っていたらお金が集まっていなかった可能性があります。
結局はバランスの問題なのですが、OSSIC Xの場合は失敗に傾いたということだと思います。
コメント
出資はしてませんが、注目していた商品だっただけにショックです。
kickstarter のコメント欄を見たところ、facebook でメンバーを募り、
集団訴訟を起こす動きがあるようで。
ストレッチゴールが最終的に首を絞める、geekwaveに出資してる自分には胃が痛くなるような話です。
直近だとMi mini pcなんか最終的にどうなるんでしょうね。
ネットメディアで紹介されたせいか、コメント欄に日本人ぽい人達が多いようで他人事ながら心配です。