Kickstarterがガイダンスを改訂、世界最高などの文言が問題に。詳しく解説

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2019年6月14日、Kickstarterが規定を改訂しました。今回のガイダンスは多岐にわたりますが、その中には安易に世界初といった文句をつけることやめる、といった勧告もあります。

これまでのルール

Kickstarterには以前から、プロジェクトを作成する上でのルール(規約)があります。
https://www.kickstarter.com/rules
このルールの中には、製品プロトタイプ(試作品)を使って実演しなくてはならない、写真のように見えるCGを使ってはならない、といったものがあります。このルールに違反した場合、プロジェクトを運営から強制的に中止にされることがあります。


こういったルールはありましたが、それ以外にはあまり細かい規定はありませんでした。前述のKickstaterのルールページを見ていただければわかるとおり、細かい規則を設ける代わりにおおかまな方向性のみ定めています。
Kickstarter運営の考えは分かりませんが、プロジェクト責任者の自主性に任せることで、型にはまらないプロモーションを自由に行える効果はあったように思います。しかしこの点が同時に問題を生んでしまったと、Kickstarter運営は考えたようです。

問題点

今回Kickstarter運営はルールを改訂し、前述の基本ルールに加えて、詳細なガイダンスが設けられました。
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https://www.kickstarter.com/blog/guidance-on-crafting-an-honest-and-clearly-presented-project
従来「正直で明確な表現(Honest and Clear Project Presentation)」をするという規定はありましたが、それが具体的に何かを指すのか。どこまでプロジェクトのページに記載してよいのかは、示されていませんでした。
そのため、プロジェクトのタイトルに「世界最高(World’s best)」と言った文言を入れることも可能でした。実際、Kickstarterのプロジェクトは「Worlds’s best」という文言が極めて頻繁に出現していました。
下画像: Kickstarter内をGoogle検索した結果
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しかし「世界最高」と言いつつも、何をもって世界最高といっているのか、具体的にどのように調査したのか、明確にしているプロジェクトは少ないです。World’s smallestと言っている場合は小さいことだとわかりますが、bestとは何なのでしょうか。
Kickstarter運営が今回問題にしているのは、まさにこういった部分です。こういった表記が公平さを欠き、支援者の期待を過度にあげてしまう。これはお金を出す支援者にとっても、ひいてはプロジェクト側にとっても、よくないということです。
ただ従来ルールでは、「正直で明確な表現」としか書かれていなかったため、運営側としてもプロジェクトを強制中止するようなことはできませんでした。「正直で明確」というのは意味するところが広すぎるため、「世界最高」という表記が違反するのかが不明確です。
そこで、どういうことを記載していいのか。何を書いてはいけないのか。具体例付きで説明ページが設けられました。

追加されたガイダンス

今回Kickstarterが新たに、正直(Honest)とは何かを詳細に記載したページを作りました。前述の「世界最高」以外にも、多数の項目があります。
・現状未完成なのに、完成しているかのように言わない
・世界最高、世界最小などの誇張表現はしない
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https://www.kickstarter.com/honest
それらに加えて、従来よりもかなり厳しい項目も追加されています。
・市販価格30%オフなど、あたかも将来の市販が決まっているかのように書かない
・「5時間でファンディング達成!」などの人気度を示唆するバッジをつけない
従来は、予定市販価格から30%オフ、という書き方が頻繁に行われてきました。今回、

禁止事項
小売販売価格に関する記述を含めるなどして、Kickstarter 後にその製品を販売する可能性を示唆したり予測したりする。(例: 「販売価格50%オフ」や「希望小売価格から35%割引」など)

と、明確に非推奨事項になりました。
Kickstarter運営は割り引き自体を非推奨事項にしているわけではありません。プロジェクトの初期段階でお金を支援してくれる人に割安で提供すること自体は、禁止とは書かれていません。禁止されているのは「後にその製品を販売する可能性を示唆」することです。
のちに市販するかどうかは、Kickstarterのプロジェクトの段階ではわからないことも多いでしょう。仮に確定しているとしても、それは外部の人間からはわかりません。運営がするなといっているのは、市販という外から見て不確定なことで、ユーザーの期待をあおっていはいけない、ということではないかと思います。
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さらに「5時間でファンディング達成!」という表現もしてはいけない事項に明記されました。そもそも目標金額を下げれば目標額に到達する時間は短くなるので、ユーザー側からするとあまり意味のない指標だったとも言えます。金額と人数がどのぐらい集まっているかは表示されているので、ユーザーが自分で見て判断できます。
また製品説明用の動画ではワイヤーフレームのCGは使ってよいことが明記されるなど、動画や写真の撮り方もガイダンスが規定されました。
前述の写真のように見えるCGは、以前から極めて厳しく禁止されていましたが(プロジェクト強制中止事例もあります)、写真のように見えないCGとはいったいどういうものか、具体例がありませんでした。今回はワイヤーフレームなら良いという、明確な具体例が示されました。

ワイヤーフレームだと最終製品の質感などは分かりません。形と大まかな色だけしかよくわからないというのが、正直なところでしょう。しかし表面の質感も支援者に見せたいのならば、そこまで製品の試作品を作れば今回の規定には反しません。試作品なしにCGで期待を不用意に上げるなということかと思います。
なおこれら規定は、英語版のページでは「recommendations(推奨事項)」、日本語版のページでは「以下は規則/ルールであり、単なるおすすめや提案ではありません。」と書かれており、両者で少しニュアンスが異なります。ただしどちらのページでも、違反した場合はプロジェクトを強制停止する可能性がある(suspendですが、一度suspenedになると復活できません)ことが書かれています。

どう考えるべきか

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World’s bestやWorld’s smallestという表現は「Do Not(英語版)」「禁止事項(日本語版)」となりました。こういった表現が今後は絶対にだめだというわけではないでしょう。明確な根拠と、調査が行われているのではあれば、運営もだめだとは言わないのではないかと思います。
ただし本当に世界最小なのか、本当に世界最高なのかを調査するのは非常に難しいです。自分が知らないだけで、世界のどこかで誰かが実現しているかもしれません。
そう考えるとこういった書き方は、そもそも避けるべきではないかと思います。またWorld’s bestという言葉はKickstarterで乱発され過ぎて、ユーザーに訴求できていたのかどうかもあやしいと思います。
今回の追加事項は総じて、プロジェクトの現状をあるがままに書く期待をあおらない。ということになると思います。
・将来の市販は確定ではないので書かない
・最高や最小などは不明確なので書かない
・まだできていない機能は正直にそう書く
・まだできていない機能をCGで追加しない
・動画の編集は最小限にする (現状あるがまま見せる)
などです。
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これらはもちろん、Kickstarterでお金を出す支援者にとって良いことです。現状どこまでできていて、これから作るものが何かが明確になっていれば、お金を出す出さないの決断もしやすくなります。
またひいては、プロジェクト側にとってもメリットのあることでしょう。過剰に期待をあおってプロジェクトのハードル上げてしまうと、実際に製品が届いたときにユーザーががっかりする可能性も高くなります。そうなると信頼を失うのはプロジェクト側です。後継製品や今後の事業展開に差し支えるでしょう。これではプロジェクト側にとっても損です。
そう考えると、今回の変更はお金を出す支援者のみならず、プロジェクト側、ひいては商品型クラウドファンディング業界にとってもよいことではないかと思います。

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